冬の朝、川棚へ向かう

さて、ここからは実際に盗餅を取材した日の話に戻ります。今年の開催日は1月11日。当日9時から始まる盗餅馬づくりに間に合うよう、前日のうちに下関へ入りました。

11日朝、ホテルをチェックアウトし、下関駅を7時26分に出発するJR山陰本線に乗り込みます。この日は強風の影響で、長門市行の列車は運転区間を短縮し、どうにか小串まで走っていました。小串は、目的地である川棚温泉駅のひとつ先の駅です。

列車に揺られていると、車窓の景色は住宅地から少しずつ山と田園へと変わっていきます。朝の光を浴びた列車は、その長い影を田んぼに映しながら、40分ほど静かに走り続けました。川棚温泉駅で降り、会場となる川棚神社までおよそ2kmを歩きます。吐く息は白く、冬の寒さがしっかりと肌に残る朝でした。

川棚神社で始まる、盗餅馬づくり

神社の鳥居の近くで、盗餅の取りまとめをされている和田さんと合流しました。その後、参加者のみなさんが車で続々と集まってきます。

境内の参集殿の一室には大きなブルーシートが敷かれ、その上に酒米・山田錦のワラが次々と運び込まれていきました。今年、盗餅馬づくりに参加したのは17名。これからこの場で、その日一日の主役となるワラ馬がつくられていきます。

今回、初めて盗餅馬づくりに参加した人は6名いました。北村地区の青年団から熱心に声をかけられ、参加を決めたそうです。川棚のお隣の自治体・宇賀から来たという女性もそのひとり。レクチャーを受けながら、どうにか1体のワラ馬を完成させていました。

その馬を見た指導役の男性が、「馬の口が開きすぎじゃね?これ、口に祝儀を挟めるか?」と少し心配そうに言うと、女性は「じゃあ分厚い祝儀にしてくださ〜い」と朗らかに返します。そんなやりとりに場が和み、終始なごやかな雰囲気の中で馬づくりは進んでいきました。

25軒をめぐるために

和田さんは、ワラ馬づくりに励むみなさんに向かって「最低25軒回るので、1人最低2体は作ってほしい。できるだけ丁寧に作ってください」と声をかけます。

楽しげな空気の中にも、この行事をきちんと成り立たせようとする緊張感がある。ひとつひとつのワラ馬が、その日の巡行を支える大切な役目を担っていることが伝わってきました。